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大阪高等裁判所 昭和55年(ネ)807号 判決 1981年8月25日

控訴人 東淡信用組合

右代表者代表理事 的崎紋次

右訴訟代理人弁護士 中村健太郎

同 中村健

被控訴人 岡田海運株式会社

右代表者代表取締役 岡田信雄

右訴訟代理人弁護士 守山孝三

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

《省略》

理由

当裁判所も、被控訴人の主位的請求を正当として認容すべきものと判断するのであって、その理由は次に訂正、付加するほか、原判決の理由説示と同じであるから、これを引用する。

(原判決の訂正)

1  原判決一二枚目表二行目の「九条の八の四号」を「九条の八の一項四号」と訂正する。

2  同一四枚目表二行目の「ところで」以下同六、七行目の「みなすべく、」までを削り、同所に「協同組合による金融事業に関する法律四条の二によると、信用組合は、一組合員に対し自己資本の額の一〇〇分の二〇をこえて資金の貸付をしてはならない旨を定めているところ、当審証人中谷慶二の証言及びこれにより成立の認められる乙第一二号証によると、控訴人の昭和五一年三月末日における自己資本の額は一億二一一〇万円余であり、したがって同年度における一組合員に対する貸付限度額はその二〇パーセントに相当する二四二二万円余であることが認められる。」を挿入する。

2  同一八枚目裏七行目の「認定に反する」の次に「当審証人谷田豊澄、同中谷慶二の各証言の一部は前掲証拠と対比してたやすく信用しがたく、その他に右認定に反する」を加え、同末行目の「もっとも、」の次に「原審及び当審」を加える。

(当審における控訴人の抗弁に対する判断)

一  控訴人は、本件保証は控訴人の権利能力の範囲外であるから無効であると主張するが、その趣旨は原審で主張した目的の範囲外の行為だから無効であるとの主張と多く異らないので、これを排斥した原判決の右抗弁に対する理由説示をここに引用する。

控訴人は、信用組合が組合員の個別経済を助成、推進することを目的とする非営利法人である点を強調し、権利能力の範囲はその事業目的に厳格に限定すべき旨主張するのであるが、法人の行為が、その法人の権利能力、行為能力の範囲内に属するかどうかの判断は、その行為が法令及び定款の規定に照らして法人としての活動上必要な行為でありうるかどうかを客観的、抽象的に観察して決すべきであって、当該法人が営利を目的としない法人であっても別異に解すべき理由はないというべきである(最高裁一小昭和四四年四月三日判決、民集二三巻四号七三七頁、最高裁一小昭和四五年七月二日判決、民集二四巻七号七三一頁参照。なお、後者の判決は、信用組合が、組合員のために組合員の負担する手形債務につきなした手形保証に関するものであるが、本件のような組合員の手形債務につき手形外で保証する場合も同様に解すべきである)。

なお控訴人は、控訴人が保証をなしうるのは協同組合法九条の八の二項四号に定める代理貸付の場合の保証に限られると主張するが、引用にかかる控訴人の業務に関する原判決理由説示に照らして狭きに失し、採用できない。

二  次に控訴人は、本件保証は協同組合金融法四条の二に定める貸付限度額をこえた与信であるから無効であると主張するので考えるに、引用にかかる原判決認定のように、控訴人の一組合員に対する貸付限度額は約二四二二万円と認められるのに、栄晶に対してはこれを遥かにこえる二億円の手形債務の保証(これは貸付と同視すべき与信行為である)をしている事実が明らかである。しかしながら、協同組合金融法四条の二の規定は、信用組合の金融業務の堅実な経営を確保し、預金者その他の債権者や出資者の利益の保護を図ることを目的とする取締規定と解すべきであって、同条に反する資金の貸付(これと同視すべき債務の保証)の私法上の効力まで否定するものではない。したがって、本件保証額が右限度額をこえていることをもって本件保証を無効ということはできない。

三  本件保証がいわゆる複合的違反として無効であるとの主張は、控訴人独自の所論であって採用の限りでない。

四  次に控訴人は、被控訴人が本件手形及び債務保証書を取得する際に、なすべき調査を怠った過失があるから、過失相殺により全部又は大部の免責をうけうべき旨主張するので考えるに、過失相殺は債務不履行又は不法行為によって損害が生じた場合、損害賠償の責任原因または損害の発生について賠償権利者の行為が加担したとみられるときは、賠償責任及び賠償額の算定についてこれを斟酌するものである。ところで、本訴の主位的請求は控訴人の保証債務の履行、支払を求めるものであって、債務不履行又は不法行為により生じた損害の賠償請求でないことは明らかであるから、これに過失相殺を適用する余地はないものというべく、控訴人の右主張はその余について判断するまでもなく失当である(なお、本訴においては主位的請求を認容するので、控訴人が予備的請求に対しても右主張をする趣旨であるとしても、これにつき判断する必要はない)。

五  控訴人が当審で補足した民法九三条但書の類推適用に関する主張事実について次に判断する。

1  について

本件保証額が、控訴人の一組合員に対する貸付限度額を遥かにこえるものであることは前認定のとおりであるが、信用組合に組合員に対する貸付限度額が定められ、これをこえる貸付等が許されていないこと、及び控訴人の一組合員に対する貸付限度額が前記のとおりであることについて、柴橋商事が本件手形取得当時これを知っていたと認めるに足りる明確な証拠はない。

2  について

引用にかかる原判決認定のとおり、柴橋は控訴人事務所において中谷理事長より栄晶との取引につき種々説明をうけ、中谷が自ら関係官庁等へ出向いて行なった調査結果の報告を聞き、さらに極度額一〇億円の担保物件を徴している事実を控訴人備付けの担保台帳を示されて確認したのであるから、中谷が控訴人の理事長という職にあったこと、中谷が債務保証書の作成を柴橋の面前で石井総務部長に命じた事実とを併せ考えると、柴橋が中谷の権限踰越に思い及ばなかったのは無理からぬところがあると認められる。

控訴人は、柴橋には他の理事についてさらに調査すべきであったのにこれを怠った過失があると主張するのであるが、前記事情、特に控訴人の幹部職員である石井総務部長が(目録(二)の手形の保証の際は谷田常務理事が)債務保証書の作成に関与していることからしても、柴橋に前記以上の調査を求めることは難きを強いるものであって、控訴人の右主張は採用できない。

3  について

引用にかかる原判決認定のように、本件各手形は栄晶が受取人欄を白地とし、その補充権を受取人又は以後の手形所持人に付与して振出したものと認められる。そして、《証拠省略》によれば、柴橋が控訴人作成の債務保証書を受領した当初から宛名は柴橋商事と記載されていて、柴橋はこれを受取人欄白地の本件各手形とともに被控訴人に交付したことが認められる。

控訴人は、本件各手形と債務保証書の宛名が不一致であることにつき被控訴人は疑念をもつべきであったというが、手形振出人が受取人欄を白地にし補充権を与えて手形を流通におくことはよくあることで、格別不審を抱くべき筋合いではない。また、右債務保証書には手形番号、手形要件を記載して保証すべき手形を特定しているのであるから、譲渡禁止の特約が付されていない本件の場合、その宛名が柴橋商事となっていても、右保証書記載の手形の所持人に手形金額の支払を保証する趣旨であることは明らかである。してみると、本件各手形と債務保証書を併せて取得した被控訴人は、本件手形債権の行使、その満足に格別不安を抱くことはなかったものと推認されるのであって、両者の宛名の不一致に疑いをもつべきであったという控訴人の所論は当らない。もっとも、当審証人中谷慶二は、本件手形の支払期日の日かその前日に被控訴人から別に保証を求められた旨の供述をしているが、右証言の趣旨は明確を欠き、いまだ右認定を動かすに足りない。

そうだとすると、被控訴人が本件手形等を取得した際、被控訴人に対し宛名不一致を理由に事実の確認を求めなかったのは何ら異とするに足りないというべく、控訴人の右主張は採用できない。

以上の次第で控訴人の抗弁はいずれも理由がなく、被控訴人の主位的請求を認容した原判決は相当であるから、本件控訴は失当として棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 今富滋 裁判官 藤野岩雄 坂詰幸次郎)

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